「消費者の悩みの解決が最高のエビデンス」ビタミン研究の権威が語るサプリや栄養検査の使い方<前編>

今回は当社の技術顧問でもある、甲南女子大学の柴田教授に代表美濃部がお話を伺いました。

インタビュー内容をそれぞれ前編、後編でお届けします。

プロフィール

技術顧問

甲南女大学 教授/柴田 克己

  • 京都大学大学院農学研究科食品工学専攻 博士課程修了
  • 滋賀県立大学名誉教授
  • ビタミンB研究委員会委員長、内閣府食品安全委員会専門委員等
  • 厚生労働省 日本人の食事摂取基準策定委員会委員(2005年、2010年、2015年、2020年版)(任期満了) 文部科学省学校給食摂取基準策定に関する調査研究者協力会議委員(任期満了)等

栄養状態を戻せば体調が良くなる

美)柴田先生が栄養に興味をもたれたきっかけを教えてください。

柴)学生時代、酵素化学(酵素タンパク質の化学的な側面に着目した学問)を専攻しており、身体の中の反応に興味をもったことがきっかけです。その後、就職した先の学校が家政学部食物学科だったのですが、そこで古典的な栄養学で有名な村田先生に出会い、より一層栄養という現象に興味が沸きました。

美)村田先生とはどのような事を研究されていたのですか。

柴)「食べる事(食事)」が体を「養い栄えさせること(栄養)にどうつながるのだろう?という研究です。今から45年も前のことですが、村田先生は、実験材料として尿を使用されていました。村田先生の考え方は「血液や臓器を観察したところでその時点の一瞬のことしか分からない。私たちは病人ではなく健康な人を対象としているので、体の中(血液や臓器)をみても変化はないでしょう。尿は体内の余剰の物質を排泄することで体調を整えているので、血液や臓器の変化の予兆となるでしょう」というものだったように記憶しています。確かに同じような食事をしている人たちがいますが、その結果である栄養状態は様々ですね。私は、なぜちがうのか。食べた後の身体の中の科学的な仕組みに興味が湧いてきました。尿は非侵襲性の生体試料です。血液と異なり、痛みもなく自分自身で採取することが可能です。このようなことを思いついたことから、「尿中に排泄される物質を網羅的に測定することで、体内の代謝変動を推測し、個々人に最適な栄養素摂取を提言する」ことができるようにする研究をしようと思い始めました。 

美)そこから栄養、尿の研究が進んでいくんですね。

柴)はい。研究の進展と共に分子レベルで説明できるようになってきまして、より研究に拍車がかかってきました。それが2000年頃ですね。同じような食事をしているつもりでも、定期的に(3~4か月毎に)尿中の代謝物質を見ていくと、体調の良い日と悪い日で違うことにも気付いてきました。そして悪い時に栄養指導をし、栄養状態を元に戻せば体調が良くなる事がわかってきたんですよ。

美)まさに。科学的に栄養指導する原型ですね。

柴)特にビタミンの栄養状態を把握することが大切ですね。ビタミンのような壊れやすくて微量なものは、食事をみて栄養計算しても占いレベルにもならないくらいですよ(笑)冗談はともかく、ビタミンの摂取量を推測するのは難しいですね。朝作ってもらった弁当のビタミン量は作り立て時とは異なりますからね。

話は少し変わります。食事と直結する「食物栄養学」の考え方では、健康を維持するために足る栄養素が今食べる物に適正に含まれているのかが大切な事となります。栄養士はこの段階で栄養評価を行い、栄養指導をしてくれます。いわゆる「食物の栄養評価」です。人生60年時代までは、このような栄養指導でよかったと思います。人生100年時代では、「食物の栄養評価」に加えて「食べた人の栄養評価」が必要だと思います。「食べた人の栄養評価」に用いる生体指標としては「尿」が最適だと考えています。 

今お話ししたように「食物の栄養評価」と「食べた人の栄養評価」を公正に行うには、「医薬分業(薬の処方と調剤を分業すること)のように、栄養指導は「食物栄養学」と「人間栄養学」、簡略化すれば「食物」と「栄養」を分業する「食・栄分業」が重要なんです。栄養は管理栄養士の仕事、食物は栄養士の仕事にして進めていくと、食べ物と健康との関りの評価で公明正大にできるようになり、健康寿命の延伸が進んでいくと思います。

美)先生はなぜ栄養素の中から、ビタミンに興味を持たれたのですか。

柴)幼い頃、私の周囲にはまだ脚気の人がいました。ビタミンで治るということも聞いていました。「ビタミン」という言葉の響きも興味をもった一つでした。のちに知ったことですが、「vital」という意味からつけられたのですね。「病原菌なき難病」という言葉にも興味を惹かれました。19世紀~20世紀初め色々な難病が出てきており、病因を突き詰めていくとほとんどのものが病原菌によって引き起こされるものでした。しかしその中のいくつかの難病は病原菌なき難病。つまり全てビタミン欠乏だったのです。また、外因性の病気はその元をたてばなくなるでしょうが、ビタミン欠乏のような内因性の病気は無くならないですね。ビタミンを適正量摂取しなければ予防できない。ところが食事があまりにも身近であるため、知らず知らずのうちに栄養失調に陥ってしまうことがあります。だから「食べた人の栄養評価」をすること・定期的にモニターすることが必要なのです。「食物の栄養評価」で、最大の弱点であるビタミンの栄養評価をカバーできる研究、「食べた人の栄養評価」にのめり込んでいきましたね。

サプリメントは危険ではない。危険なのは正しく使用できないこと

美)私が初めて先生にお会いした際、栄養摂取方法について驚いた事があります。「食品から栄養を摂取することが良いと思っているのですが・・。」と私が話しを切り出すと先生は「サプリメントで良いと思います」と返答いただいた事を記憶しています。それは食品もサプリも栄養は同じ科学式であり合理的にとれるのはサプリメントだからという理由でした。この点に関してもう少し詳しく伺えますか。

柴)まず心得ていてほしいのは、「天然・自然」という言葉の使い方です。私は食品においては、「天然・自然」という言葉をイコール「危険で安全性が担保されていない」という意味で使用します。「天然・自然」に人が手を加えて「安全」にします。手を加えすぎるとその時の気分で「不快感と危険」を感じることがあります。でもそれを作った開発者の説明を聞くと得心することが多いです。逆に知識を持たずに「不快感と危険」をあおる人の話を聞くと、ますます「安心感」が薄れていきます。一般的に人はあおる人の話の方が好きだと思います。例えば「食品添加物は安全ですよ」という内容の講演会には無料でも参加者は少ない。一方「このような食品添加物は危険ですよ。食べてはいけません。」という内容の講演会には有料でも参加者は集まります。

話をもとに戻します。20世紀の初頭から100年間で栄養学者をはじめとする多くの分野の研究成果により、不足しがちな栄養素のみを摂取できる「補助食品」を作れるようになりました。具体的に言えば、栄養素の発見・栄養素の化学構造の解明・栄養素の化学合成により、そして安定的かつ安価に化学合成できる技術開発により、単一の栄養素あるいは栄養素を組み合わせた食品、私はこれらを「次世代型の食品」と言っていますが、いわゆる「サプリメント」ですね。これを安価に容易に得られる時代になりました。さらに通常の食品形態に不足する栄養素を添加している食品もできました。「食物栄養学」から見れば理想的な食品が出現しています。私は「食べた人の栄養評価」の研究を行う人間栄養学者です。人間栄養学者はサプリメント支持派が多いですね。生体指標で不足と判断された栄養素をサプリメントで補充することができる。素晴らしい食生活じゃないですか。サプリメントは「食物栄養学」から見れば、理想的な食品ですよ。ですが「食物栄養学」を専攻した人らは慎重派が多いと感じています。この原因は「食物栄養学」が家政学部食物学科を祖とすることであると私は考えています。「食物学科」の教育は道徳的な雰囲気がありますね。袋を破ってすぐに食べられる食品を一等下にみる風潮があるように感じています。袋に<お>をつければ、おふくろの味ですけどね(笑)自分が作った物が一番であるという風潮ですね。

また話がそれました。サプリメントと呼ばれる次世代型の食品を危険であるという人は、従来型の「食べ物」という概念にとらわれているのでしょうね。家政学で扱う衣食住という生きるために直結する学問領域の中で「食事を作る」という作業はいまだに各家庭で毎日行うべき労働になっています。解放されてもよいのではないでしょうか。便利な次世代型の食品を使うには栄養学の知識が必要です。実は「食物学」や「食物栄養学」を専攻した人は「人間栄養学」に興味を持つ人は少ないですね。「人間栄養学」では「人体の構造と機能および疾病の成り立ち」という学問領域が最も肝となるカリキュラムです。この領域を勉強しない人がサプリメントは危険と言っているように感じています。正しく使用できない人がいることが実は問題なのです。正しく使用できない人ほど「通常型の食品で満たすべきだ」と主張しますね。繰り返しですが、「食べた人の栄養評価」をおこない不足する栄養素のみをサプリメントで補充する、この方法が次世代型の栄養指導です。

美)まさに当社が正しい栄養の知識として啓発している話そのものだと思います。一方で食品の中には必須栄養以外のバイオファクター(※ビタミン様物質、ホルモンなど、生命活動に必須の微量生体物質などを指します)も含まれると思いますが、どのようにお考えですか。

柴)今までは養い栄えるために必要な化学物質として、栄養素のビタミンのみに絞って話をしてきたと思います。からだを養い栄えさせるためには、タンパク質・脂質・糖質・ミネラル・ビタミンと呼ばれる栄養素があります。実はそれら以外の化学物質を摂ることも養い栄えるために必要です。高齢期に入りますと、青年期・壮年期には、栄養素から十分量合成されていた「生体必須成分」の生合成能力が落ちてきます。「生体必須成分」は栄養素以上の数があります。「生体必須成分」の生合成能力を落ちないよう補助する物質・代替作用を有する物質、あるいは「生体必須成分」そのものがバイオファクターと呼ばれるものです。バイオオファクターを機能性成分という場合もありますね。どのような化学物質がバイオファクターになるのかまだよくわかっていません。植物性食品は動物には合成できない化学成分(例えばポリフェノールなど)を含んでいます。体の調子を整える食品として、野菜の摂取が進められているのはバイオファクターを含むからです。まだまだ分かっていないことも多く今後の大切な課題ですね。

美)つまりこれらのバイオファクターは単一の栄養素(サプリメント)では補給することが難しい為、食品から摂取するべきかもしれないという理解であっているでしょうか。

柴)はい、まさにそのとおりですね。すべての栄養素は解明されたとしていいでしょう。栄養素から体内で作られる「生体必須成分」の生合成能力を落とさないようにするためのバイオファクターの特定と補助量の解明が、人生100年時代を自立して生きるために必要な喫緊の課題でしょうね。バイオファクターのことがよりクリアになってきたら、「野菜を食べましょう」といったことは食物学的には言われても、栄養学的に言わなくなる日がくるかもしれないですね。

それではクリアになったバイオファクターは、栄養素のように国が食事摂取基準で必要量を提言してくるのかというと、私は否定的な考え方を持っています。基準にしてしまうと食糧計画が複雑になるからです。なので、栄養素以外の基準の提言は、民間企業の中で進んでいくのが好ましいと思っています。私としてはユカシカドなどの民間企業が積極的に栄養改善を推進していく段階で提言することが良い方向なのではと思っています。

著者 / 監修者