たんぱく質の必要量を作った研究者が語る、たんぱく質摂取の極意とは?<前編>

今回は当社の技術顧問でもある、甲南女子大学の木戸教授に代表美濃部がお話を伺いました。

インタビュー内容をそれぞれ前編、後編でお届けします。

プロフィール

技術顧問

甲南女子大学 教授/木戸 康博

  • 徳島大学大学院栄養学研究科 修士課程修了
  • 京都府立大学名誉教授、ハノイ医科大学客員教授 など
  • (公社)日本栄養士会(理事)、(公財)味の素ファンデーション(理事)など
  • 厚生労働省 日本人の食事摂取基準策定委員会
    (2010年、2015年、2020年版)(任期満了)

食の選択で健康は作れる

美)先生が栄養に興味を持った理由を教えてください。

木)「We Are What We Eat」というアメリカのことわざを知っていますか。

美)はい。僕たちは食べ物からできているという意味ですよね。

木)そうです。つまり食べ物によって私たちができているのだから、食べ物によっていかようにも良くなったり悪くなったりするということです。 それってすごいと思いませんか。

赤ちゃんはお母さんからもらう栄養だけで約3,000gまで成長して産まれてきますよね。その赤ちゃんが20歳になったら約50kgまで体重が増える。成長期に皮膚がバリバリ形成されてきたり、骨格が出来上がったりしていく。そして赤ちゃんがいろんな機能を持ちながら、発育・発達していくこと、当たり前のようで凄いことですよね。

美)確かに。当たり前なことですが、凄いことですよね。

木)赤ちゃんから成人までの47kgの差は一体なにから出来ているのだろうか。そして何かが不足したり過剰だったりすると、体調が悪くなってしまう。医師は病気を治すために医学を学びます。でも病気にならない人もいる。なぜ病気にならない人がいるのだろうと疑問を持ち、病気にならないようにできる学問は栄養学なのではと思い興味を抱きました。

たんぱく質の必要量をつくる誇り

美)そうやって栄養に興味をお持ちだったわけですが、学生時代はどのような研究をされていたのですか。

木)たんぱく質の必要摂取量を決めるために自分自身が被験者になって研究を進めたりしていました。被験者は研究のために毎日栄養価が一定のものを食べなくてはならないため、研究生10名で学校に泊まり込み、炭水化物補給のために精製されたでんぷんにデキストリン、食物繊維、砂糖、粉飴を混ぜてできた「ういろう」、たんぱく質源はアミノ酸を自分で軽量・配合しオブラートに包んだものを摂取していました。口の中でオブラートが誤って早めに溶けてしまったら悶絶ものですよ(笑)。また脂質を摂取するためにサラダ油をそのまま飲んでいました。これを朝昼晩1年間続けるわけです。その間、尿や血液、便、たらいに入って皮膚をゴシゴシし皮脂なども採取するんですよ。

美)美味しいものを食べることは人にとっても生きがいでもあるので、過酷なのが容易に想像できます。この過酷な研究はどのようなモチベーションでやり遂げてこられたんですか。

木)日本人を代表してたんぱく質の必要量を決めているんだと誇りに思ってやっていました。このような試験は2000年以降、研究倫理委員会からの許可が難しいこと、被験者が集まりにくいことからできなくなりましたけどね。

美)先生がたんぱく質、アミノ酸の研究にご尽力されるきっかけも学生時代の研究の影響ですか。

木)私の学生時代は、1970年頃ダドリック(※アメリカ合衆国の外科医スタンリー・ダドリック)が中心静脈栄養(心臓近くにある太い静脈に水分・電解質、栄養の補給の点滴を行う方法)の開発に端を発し、必要な栄養が徐々にわかってきたタイミングでした。そんな中で私の研究のテーマが”食欲”でして、なぜお腹いっぱいになるのか。それがエネルギーで調節されているのか。栄養素毎に調節系があるのか。その中でたんぱく質が摂取調節(食欲の調節には、脳が深く関与しており空腹感や満腹感の信号をキャッチします。その信号が調節している機能を指します)があるのかを調べていくことになりました。

たんぱく質摂取もバランスが大事

美)なるほど。”食欲”についての研究の中でたんぱく質を詳しく研究されることになったのですね。昨今たんぱく質やアミノ酸を効率的に摂取する動きが一般化しつつありますが、積極的かつ大量に摂ろうとしている事にご意見ありますか。

木)たんぱく質だけを突出して摂取することに対しては反対です。理由としては、それぞれの人に適切な量のたんぱく質を摂取することが望ましいからです。総エネルギー摂取量に対するたんぱく質の割合というのは一定の幅にあって、たんぱく質だけを過剰に摂取し他の栄養を摂らないなんてことは、それはありえない。

美)糖質を制限し、過剰にたんぱく質のみを摂取するような方法のような方法もその一つですね。

木)はい。エネルギー代謝の一丁目一番地は糖質の代謝。それを補うために脂質代謝があり、たんぱく質が犠牲になっていると考えるのが一般的です。たんぱく質だけを食べると、エネルギー源としてのグルコースがなくなると中枢機能が低下してくる。そのために糖新生をし、グルコースを送り出し脳に与えている。ダメな時は仕方がないからケトン体を肝臓で作り、血中に出してエネルギーとして使うことを致し方なくやっている。そして脂質からは決してグルコースはできない。グルコースができるのはアミノ酸からだけです。たんぱく質は分解してカバーするので、そこでグルコースを摂取せずにたんぱく質や脂質だけを摂取していたら、基本的には代謝がおかしくなるのは当然ですよね。痩せるのは当然。ただそれが身体に良いかは別。

美)ついついダイエットなどで痩せることだけが注目を集めてしまいますが、痩せる=健康ではないということですね。

木)そうなんです。これらを考えると糖質制限が良いはずがないです。実際論文では突然死になっている事例もありますよね。エビデンスとしての因果関係ははっきりしていないので危ない行為であると広く伝えていくことが難しいですが、身体に負担がかかる構造になっているのは一目瞭然です。なので体調不良になることは当然です。

美)つまりプロテインやサプリも基本は食事と一緒で、過剰摂取はダメという理解でよろしいでしょうか。

木)その通りです。食事もプロテインもサプリも過剰摂取するから身体へ負担がかかるので、プロテインもサプリも栄養バランスを考えてとれば問題ない。栄養バランスを意識してしっかり摂りましょう。そのためには自身の栄養バランスを把握すること、身体活動量に見合った栄養の摂取方法が必要で、極端にバランスを崩すことは良くないです。だからこそ栄養や食事に対しては、栄養バランスが大事。また不足しているものを適切に摂取することが大切なのです。足りなくなっても摂りすぎでもいけない。栄養バランスをいかに考えるかというのが、究極の栄養における課題です。

美)その栄養バランスですが、どれだけたんぱく質を摂取するのがよいのでしょうか。若いアスリートと高齢者ではまた違ったりしますよね。

木)はい。まさにアスリートに関しては、消費エネルギーが非常に多い関係上、一般的な人の栄養バランス(PFC)と一緒にするのは大きな課題として残っています。たんぱく質の量を増やして、糖質脂質を減らした方が良いかもしれないし、増やした方が良いかもしれない。それは競技によって異なってくると思います。

美)適切な栄養摂取量についても科学的に分かってくる時代が目の前まできています。先生方のご指導を賜りながら進めていきたいと思います。

著者 / 監修者