【2020年版】最も大きなエネルギー源、ほどよく摂りたい脂質の基本を知る。

「太る」のイメージが強い脂質。
確かに余分な脂質は脂肪として体内に蓄えられますが、他にも細胞の働きを維持したり、脂溶性ビタミンの吸収を助けてくれたりする重要な栄養素です。

脂質の機能

三大栄養素の中で最も高エネルギー

脂質、たんぱく質、炭水化物のすべての三大栄養素にはエネルギーがありますが、その中でも脂質のエネルギーは断トツ。
たんぱく質、炭水化物のエネルギーは4kcal/gであるのに対し、脂質は9kcal/gと倍以上になります。
そのエネルギー量の大きさから、余った分に関しては炭水化物やたんぱく質よりも優先的に脂肪として貯えられます。
脂肪はエネルギーを貯蔵し、体の保温や臓器の保護に役立ちます。
また、アディポサイトカインとよばれる生理活性物質を分泌して血圧や食欲のコントロールを行います。

細胞膜の構成成分になる

脂質にはいくつかの種類が存在し、そのうちリン脂質、糖脂質、コレステロールが細胞膜の成分となります。
コレステロールはほかにも脂質の消化を助ける胆汁酸になったり、ホルモンやビタミンDの原料になったりします。
コレステロールが血液中に増えすぎると動脈硬化を引き起こす要因となります。

ビタミンA・D・E・K、カロテノイドの吸収を高める

ビタミンA・D・E・K、カロテノイドは水に溶けにくい代わりに脂に溶けやすい性質をもっています。
そのため、脂質に溶けることで吸収を高められるようになります。
ビタミンA・D・E・Kは油脂に溶け込んでいる場合も多いです。
カロテノイドは緑黄色野菜などに含まれる黄色または赤色の色素で、強い抗酸化力をもちます。

脂質の消化、吸収、代謝

脂質の消化吸収は時間がかかる

脂質の消化吸収には他の栄養素とくらべて時間を要します。
1回の食事で20gの脂肪を摂取した場合、十二指腸(小腸)にたどり着くまでに4〜6時間かかると言われています。
脂っこいものをたくさん食べると消化に時間がかかり、胃に食べた物が滞留してしまいます。
胃もたれが起こるのはこのためです。

脂質の消化にはビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸

脂肪酸の消化にはビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸が関与します。
これらの栄養素が不足すると脂質の消化も滞ってしまいます。合わせて摂取しましょう。
日本人の場合、この中ではビタミンB2が不足しやすい傾向にあります。
ビタミンB2はレバーや卵、乳製品に多く含まれています。

脂質の摂取基準

脂質の摂取基準

一般的な成人の男女で摂取エネルギーの20〜30%を脂質で摂取することが推奨されています。
摂取エネルギーの目安は下の表を参考にしてください。
例えば、身体活動レベルがふつうの20代女性の場合、推定エネルギー必要量は2000kcal/1日です。
そのため、脂質から摂取するエネルギーは400~600kcalが目安となります。

脂質の種類別摂取基準

脂質は種類別にも基準が設けられています。
飽和脂肪酸はエネルギー源となります。
n-6系、n-3系脂肪酸は不飽和脂肪酸に分類される脂質です。
n-6系脂肪酸は血液中のコレステロールを減少させ、n-3系脂肪酸はHDL(善玉)コレステロールを増やし、LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪を減らす働きをもちます。

過不足のリスク

過剰摂取は肥満やがんの原因に

余分な脂質は脂肪となって蓄積されます。
適度な脂肪は健康の維持に大事ですが、脂肪がたくさん蓄積されると肥満やメタボリックシンドロームの原因となります。
これが高血圧や高血糖、脂質代謝異常等と組み合わさって脳卒中や動脈硬化などの発生リスクにつながります。
他にも大腸がんや乳がんとも関連があると考えられています。
脂質の中でも、特に飽和脂肪酸と呼ばれる脂質にその傾向が強いと考えられています。
飽和脂肪酸はバターや肉などに多く含まれる、常温で固体で存在している脂質です。

不足すると疲れや肌荒れがでることがある

脂質の摂取があまりに少ないとエネルギーが不足して疲れやすくなることがあります。
さらに、脂質が少ないと脂溶性ビタミンの吸収を悪化させてビタミンA・D・E・Kの不足リスクを引き起こす可能性があります。
また、細胞膜の組成を阻害することで肌荒れや髪質の悪化にもつながります。
特にn-3系脂肪酸(オメガ3系脂肪酸)の不足は皮膚炎などが発症する場合があります。
n-3系脂肪酸にはDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)、α-リノレン酸などがあり、魚に多く含まれます。
また、飽和脂肪酸の摂取が極端に不足すると脳出血の発症率が上がることが報告されています。

脂質が多く含まれる食品

脂質の多く含まれる食品

食用油やバター、肉や魚などの動物性食品はもちろん、豆類、乳製品、穀類等にも含まれています。
摂りすぎには注意しましょう。

n-6系脂肪酸(オメガ6系脂肪酸)

n-3系脂肪酸(オメガ3系脂肪酸)

参考文献

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
文部科学省(2015)「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
上西一弘(2016)「栄養素の通になる」女子栄養大学出版部
田知陽一(2018)「栄養科学イラストレイテッド基礎栄養学第3版」羊土社
中嶋洋子(2017)「改訂新版栄養の教科書」新星出版社

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