サルコペニア予防のための栄養素、ミネラル摂取が重要かも

サルコペニアに栄養状態が関係している?ミネラル摂取に注目

サルコペニアとは、加齢に伴い筋肉が減少し、身体的機能が低下することをいいます。
サルコペニアの予防に、ミネラル、とくにカルシウム、マグネシウム、セレンが関係している可能性が報告されています[1]。
この記事では、その報告の内容と、摂取基準および摂取のポイントをご紹介します。 

サルコペニアとミネラルに関する報告

オランダ、アムステルダム応用科学大学のDronkelaarらによって、高齢者の筋肉量、筋力、および身体能力におけるミネラルの役割が報告されています[1]。

~以下引用~
高齢者の筋量、筋力、および身体能力に対するカルシウム、鉄、マグネシウム、リン、カリウム、セレン、ナトリウム、および亜鉛の役割を基準に従って抽出した10件の研究にもとづいて系統的レビューによって評価した。観察研究において、血清セレンおよびカルシウム摂取の増加は筋肉量と有意に関連していたが、カルシウムの効果は、カルシウム摂取の少ない集団でのみ生じていた。また、マグネシウム、セレン、鉄、亜鉛摂取量は身体能力と正の相関を示し、マグネシウム、セレン、カルシウム、リン摂取量がサルコペニア患者では少ないとする研究があった。また、無作為化比較試験において、マグネシウム補給が身体能力を改善するとした研究が1件あった。ナトリウムおよびカリウムについては有意な関連を示す研究はなかった。
結論として、ミネラルはサルコペニアを予防および治療するための重要な栄養素である可能性があり、特に、マグネシウム、セレン、カルシウムがより重要である可能性がある。ただし評価の対象とした研究のほとんどが観察研究であることから、今後、無作為化比較試験でのさらなる解明が必要である。
~引用終わり~ 

気を付けるべき栄養素、日本における摂取基準と摂取のポイント

今回紹介した報告では、ミネラルの中でマグネシウム、セレン、カルシウムがサルコペニア予防に重要であると述べられています。
マグネシウムについては、食事以外に補給した場合の効果も示されていますので、とくに重要であるかもしれません。
筋肉の活動においてはエネルギーとしてATPが消費されますが、体内でATPを使う反応にはほとんどすべてマグネシウムが関わりますので、体内で作られたエネルギーを効果的に使うのに十分なマグネシウムが必要なのでしょう。
セレンについては食事からの摂取が少ない欧米での研究結果ですので、カルシウムと同じように一定水準を下回る場合にサルコペニアのリスクが高まると解釈すべきです。

カルシウム

日本人の食事摂取基準[2]において、カルシウム摂取の推奨量は50歳以上の男性700~750 mg/日、女性600~650 mg/日と策定されています。
一方、平成30年度国民健康・栄養調査[3]によると、50歳以上のカルシウム摂取量は 480~580 mg程度にとどまっており、日本人は上の研究でいうところのカルシウム摂取の少ない集団に該当します。
したがって、カルシウムの摂取を推奨量を目指して高めることが必要です。

カルシウムは、乳製品や小魚、大豆製品などに多く、牛乳には100 mLあたり110 mg程度のカルシウムが含まれています[4]。カルシウムを補うために、まずはコップ1杯の牛乳から始めてみても良いかもしれません。
食品で補いきれないときには、サプリメントを活用するのも有効です。カルシウム摂取の耐容上限量は2,500 mg/日ですが、栄養機能食品の表示がなされているサプリメントは1日の摂取量が300〜600 mgになるように設計されていますので過剰摂取につながる心配はありません。
日本においてミネラルのサプリメントは必要でない場合が多いのですが、カルシウムについては、食品からの摂取が難しい場合は導入してもいいと思います。
ただし、エネルギーとタンパク質が不十分な場合はカルシウムだけを増やしても効果がありませんので、その点は注意をしてください。 

マグネシウム

マグネシウムの推奨量は、50歳以上の男性320~370 mg/日、女性260~290mg/日と策定されています[2]。
一方、平成30年度国民健康・栄養調査[3]によるマグネシウム摂取量の平均値は、男性290~320 mg/日、女性250~290 mg/日です。
先に述べたようにマグネシウムはエネルギーを効果的に使うために必要なミネラルです。
すなわち、エネルギー摂取に比例してマグネシウムの必要量は大きくなります。

マグネシウムを比較的多く(100 gあたり50 mg以上)含む食品には、ほうれんそう、木綿豆腐、水戻しわかめなどがあります[4]。また、一般に魚介類は肉類よりも多くのマグネシウムを含んでいます。
さらに日常的に大量に食べるものではありませんが、アーモンドなどのナッツ類や焼きのりは100 gあたりで300 mg程度のマグネシウムを含んでいます。
これらの食材をうまく利用して、エネルギー摂取とマグネシウム摂取が比例して増加する献立を工夫することが重要です。
なお、サプリメントからの多量摂取は下痢を引き起こす可能性があるため、サプリメントからの摂取量には耐容上限量が設けられており(成人の場合350 mg/日)[2]、サプリメントによってマグネシウムの摂取量を増やすことには注意が必要です。

セレン

セレンの摂取量の推奨量は成人男性で30 µg/日、成人女性で25 µg/日とされていますが、これは重篤な心筋障害である克山病というセレン欠乏症の予防に必要な最小の摂取量から定められたものであり、セレノプロテイン類の体内での合成量を十分にするには約50 µg/日のセレン摂取が必要です[2]。
幸いなことにセレンは魚介類、畜産物、米国産小麦に多く含まれているため、日本人は平均的に見て50 µg/日を超える十分なセレン摂取が達成できています。
したがって主要栄養素のバランスがとれた献立を維持することで、セレン摂取は適切な範囲に保たれることになります。
200 µg/日のセレンをサプリメントから摂取し続けた集団にⅡ型糖尿病の発生リスクが上昇したという報告があることから、サプリメントを利用してセレン摂取を無理に増やすことは避けるべきです。 

エネルギーとタンパク質の摂取が前提

以上、述べたように、いくつかのミネラルはたしかにサルコペニアの発生と関連があり、それらを十分に摂取することが必要です。
しかし、その前提になるのは、エネルギーとタンパク質が適切に摂取できていることです。
特定のミネラルの摂取だけを増やすのではなく、多くの栄養素がバランスよく含まれている献立を考えてください。
なお、ミネラルの推奨量をすべて満たす献立を作成することは現実には難しいので、1週間くらいの中で辻褄を合わせることで十分です。 

引用文献

[1] van Dronkelaar C, van Velzen A et al. Minerals and Sarcopenia; The Role of Calcium, Iron, Magnesium, Phosphorus, Potassium, Selenium, Sodium, and Zinc on Muscle Mass, Muscle Strength, and Physical Performance in Older Adults: A Systematic Review. Journal of the American Medical Directors Association. 2018; 19(1): 6-11.

参考文献

[2] 厚生労働省(2019)「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書」, <https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html>(参照2020-02-14)
[3] 厚生労働省「国民健康・栄養調査(平成30年)」,<https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html>(参照2020-05-01)
[4] 文部科学省(2019)「食品成分データベース」, <https://fooddb.mext.go.jp/>(参照2020-02-14)

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