前立腺がんとリンの摂取に関する報告
ハーバード大学のWilsonらの研究により、リンの摂取が前立腺がんのリスクを上げることが報告されています[1]。
~以下引用~
この研究では、合計47,885人のコホートが24年間追跡され、前立腺がんの発生率、転移、および死亡率と4年ごとの食物摂取頻度調査によって得られたカルシウム、リン、および各種食品の摂取量との関連が検討された。
結果、カルシウム摂取量が多い場合に前立腺がんの発症リスクは高かったが、リン摂取量で調整すると有意な差ではなくなった。
一方、リンの摂取量が多いほど前立腺がんの発症リスクが高く、摂取量がより多いほど、致死リスク、進行度、悪性度が高かった。また、リンの作用はカルシウムや動物性食品の摂取量で調整しても有意であり、リンの多量摂取は致死性および悪性度の高い前立腺がん発症に関して、他の栄養素や個々の食品の摂取量に影響を受けない独立したリスク要因であることが示唆された。
~引用終わり~
日本人に適用すると
この研究では、リン摂取量にもとづいて対象者を5等分し、もっともリン摂取量の少ない群(リン摂取量約1000 mg)を対照群として、他の4群(リン摂取量の平均値が、それぞれ約1200、1400、1500、1800 mg/日)の前立腺がん発症リスクを求めています。
乳製品を多く摂取する欧米人のリン摂取量は日本人の約1.5倍であり、日本人の半数以上はこの研究におけるもっともリン摂取量の少ない群に相当しています。
また、真ん中の群(1400 mg/日)以上にリンを摂取している日本人は10%未満です[5]。
日本人の前立腺がん発生率が低い理由としてリン摂取量の少なさをあげることができるかもしれません。
この研究結果はリン摂取量が増加すると、前立腺がん発症リスクが高まることを明確に示していますので、日本人でも欧米人並みにリンを摂取している人は注意が必要でしょう。
リンの過剰摂取に注意、気を付けるべきポイントは
リンは骨格形成やエネルギー産生に必要なミネラルの一種であり、日本人の食事摂取基準では、日本人にリン欠乏が存在しないことを根拠に、国民健康・栄養調査におけるリン摂取量の中央値にもとづいてリンの摂取目安量を成人男性で1000 mg/日に設定しています[2]。
この値は、必要量を十二分に満たすものであり、実際の必要量はもっと少ないと思われます。
リンは肉、乳製品、魚などに多く含まれています[3]。また、ハムやソーセージ、菓子類、インスタント食品など、多くの加工食品に食品添加物として使われており、不足ではなく過剰摂取に注意すべき栄養素であると言われています[4]。
食塩のような生活習慣病の発症および重症化予防のための摂取目標量(これ以下にするという上限値)は設定されていませんが、リン含有量の多い食品の摂り過ぎには注意しましょう。
引用文献
[1] Wilson KM, Shui IM, Mucci LA et al. Calcium and phosphorus intake and prostate cancer risk: a 24-y follow-up study. Am J Clin Nutr. 2015; 101: 173-183
参考文献
[2] 厚生労働省(2019)「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書」, <https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html>(参照2020-02-14)
[3] 文部科学省(2019)「食品成分データベース」, <https://fooddb.mext.go.jp/>(参照2020-02-14)
[4] 厚生労働省「e-ヘルスネット(リン)」, <https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-038.html>(参照2020-03-24)
[5] 厚生労働省「国民健康・栄養調査特別集計、国民健康・栄養調査(平成28年)<体格、栄養素等摂取量データ>」,<https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkou_eiyou_chousa_tokubetsushuukei_h28.pdf>