心血管疾患リスクを下げるためには塩分控えめ、カリウム摂取を目指すべし

ナトリウムおよびカリウムの摂取量と心血管疾患のリスクに関する報告 

中程度のナトリウム摂取量であってもカリウム摂取が多くなれば心血管疾患のリスクが下がることが報告されています[1]。

~以下引用~
カナダのオンタリオ州にあるハミルトン健康科学人口健康研究所を中心に、26の研究グループが共同して、18ヶ国103,570人のナトリウムおよびカリウムの24時間尿排泄量を早朝空腹時の尿中ナトリウムおよびカリウム濃度から推定し、10年近く追跡(追跡期間の中央値8.2年)することによって、ナトリウムおよびカリウムの尿排泄量と心血管疾患発症率との関連を調べた。
ナトリウムとカリウムの尿排泄量には正の相関(r=0.34)があるため、ナトリウムの24時間尿排泄2 g/日未満とカリウムの24時間尿排泄3.5 g/日以上を同時に達成できている対象者は0.002%であった。WHOは、心血管疾患発症リスクを低くするために、ナトリウム摂取量2 g/日未満かつカリウム摂取量3.5 g/日以上を推奨しているが、今回の結果はこの推奨の達成がきわめて難しいことを示している。
ナトリウムの尿排泄量と心疾患発症率との関係はJ字型であり、カリウムの尿排泄量と心疾患発症率の間には逆相関の関連があった。対象者をナトリウム排泄量に従って3群(3 g/日未満、3 g/日以上5 g/日未満、5 g/日以上)、カリウムの尿排泄量に従って2群(2.1 g/日未満と2.1 g/日以上)に分けて比較すると、もっとも心疾患発症リスクが低かった組み合わせはナトリウム排泄3〜5 g/日かつカリウム排泄が2.1 g/日 以上の場合であり、他の組み合わせではこれよりも発症リスクが1.1〜1.23倍高くなっていた。
以上より、ナトリウム摂取量が中程度(3〜5 g/日)であっても、カリウム摂取量を高めることで心血管疾患の発症リスクは低くなるといえる。
~引用終わり~ 

ナトリウム摂取3〜5 g/日は食塩換算で7.6〜12.7 g/日であり、日本人の平均的な摂取量の範囲に相当しています。
ナトリウムとカリウムはほぼ100%吸収され、尿に排泄されるので、24時間尿排泄量を摂取量とすることに問題はありませんが、この研究では、早朝尿から24時間尿排泄量を推定しているため、ナトリウム排泄量を過大に見積もっている可能性があります。
したがって、この結果から日本人の現在の食塩摂取に相当するナトリウム摂取3〜5 g/日が適正と考えるのは危険だと思います。
この報告は、ナトリウム摂取を極端に減らさなくてもカリウムを十分に摂取すれば、心血管疾患のリスク低減につながることを示唆していると解釈すべきでしょう。 

ナトリウムおよびカリウムの日本における摂取状況

日本人の食事摂取基準[2]では、高血圧症の予防を目的とした目標量が設けられており、ナトリウムが女性2.6、男性3.0 g/日未満(食塩換算で女性6.5、男性7.5 g/日未満)、カリウムが女性2,600、男性3,000 mg/日以上です。
上に紹介した報告からも、この食事摂取基準の目標量を目指すことが心血管疾患の予防につながるといえるでしょう。
平成30年の国民健康・栄養調査[3]によると、成人のナトリウム摂取量の平均値は約4.0 g/日であり目標量を上回り、カリウム摂取量の平均値は2,362 mg/日であり目標量を下回っています。
このことから、多くの人は、ナトリウム摂取を控えつつ、カリウムを十分に摂取することが必要であるといえるでしょう。 

塩分過剰でカリウム不足の日本人、食事で気を付けるべきことは

上に挙げた国民健康・栄養調査からも分かるように、日本人はナトリウム(塩分)過剰、カリウム不足の傾向にあります。 

減塩するには

食塩を多く含む食材には、インスタントラーメンやハム、魚肉ソーセージ、梅干しや漬物といった加工品が挙げられます。これらの食品は摂りすぎないように、ラーメンは汁を飲み干さないなど工夫してみましょう。
調理するときに気を付けるべきことは、調味料を入れすぎないことです。
調味料には塩分濃度の高いものが多く、濃口しょうゆは小さじ1杯(6 g)で0.9 g、赤みそは大さじ1杯(10 g)で1.3 gもの食塩を含むと言われています[4]。しっかりだしをとるなどして、調味料を少なめにしてみるのも良いでしょう。 

カリウムを摂取するには

カリウムはいも類や野菜類、果実類、ひじきなどの海藻類に豊富に含まれているため、これらの食材を活用しながら献立を立てると良いでしょう。
手軽に補うには、普段の間食を干し芋やドライフルーツに置き換えるのもおすすめです。 

おわりに

ナトリウム摂取量を適正に保ちカリウムを十分に摂取することが心血管疾患の予防につながるかもしれません。 

引用文献

[1] O'Donnell M, Mente A, Rangarajan S et al. Joint association of urinary sodium and potassium excretion with cardiovascular events and mortality: prospective cohort study. BMJ. 2019; 364 

参考文献

[2] 厚生労働省(2019)「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書」, <https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html>(参照2020-02-14)
[3] 厚生労働省「国民健康・栄養調査(平成30年)」,<https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html>(参照2020-05-01)
[4] 文部科学省(2019)「食品成分データベース」, <https://fooddb.mext.go.jp/>(参照2020-02-14)

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