私達日本人が健康的な生活を送る上で意識したい栄養素は全部で31種類。
その1つ1つに摂取量の基準が性別や世代別に決まっていることをご存知でしたか?
それらが明記されているのが「日本人の食事摂取基準」です。
生活習慣病の増加とともにエネルギーの過剰摂取、栄養摂取の偏りなどの問題が多くなった今、健康の維持・増進、生活習慣秒の予防を目的に制定されています。
科学的根拠に基づき制定されているため、学校給食や、健康診断における栄養指導にも使用されています。
そんな「日本人の食事摂取基準」が来年、2020年に改訂されます。
今回はその中から、特に知っておきたい変更点を4つご紹介します。
「日本人の食事摂取基準」とは?
「日本人の食事摂取基準」とは、健康増進法に基づき、厚生労働大臣が定める食事摂取の基準です。
国民の健康の保持・増進を図る上で摂取することが望ましいエネルギーと栄養素の量の基準が記載されています。
5年に1回改訂されます。
塩分摂取基準がさらに厳格化
現行の食事摂取基準では塩分の摂取目標は1日あたり成人男性で9.0g未満、女性7.5g未満となっています。
2020年からはさらに厳しくなり、男性7.5g未満、女性6.5g未満となりました。
食塩摂取量は減少傾向にあるものの、目標量からはかけ離れています。
表に主な食事の塩分量を表記しました。
一食あたりの食塩摂取量の目安は男性2.5g、女性2.1g程度となりますので、目標達成の難しさがうかがえます。
平成29年国民健康・栄養調査によると、食塩摂取量の平均値は9.9g。
自炊する場合は、辛味や酸味などの別の味つけをする、外食する場合は麺類のスープを飲まないなど、減塩をかなり意識した行動が求められそうです。
ビタミンDの目安量が増加
現行の食事摂取基準ではビタミンDの1日あたり目安量は成人で5.5μgでしたが、2020年からは8.5μgに増加します。
ビタミンDは骨の形成を助けるビタミンです。
骨折リスクを上昇させないビタミンDの必要量に基づき、アメリカ・カナダの推奨量から目安量が再度設定されました。
成人のビタミンD平均摂取量は7.3μg。
ビタミンDは魚介類やきのこ類に含まれ、干ししいたけ10gで不足することになる1.2μgは補えます。
食事のみならず、日に当たることでもビタミンDが生成されますので、適度に日にあたることも大切です。
トランス脂肪酸とコレステロールの摂取上限を制定
トランス脂肪酸は約2gが上限に
トランス脂肪酸とは、マーガリンのような液体の脂肪酸を人工的に固体化させた脂質をさします。
天然の脂質にはあまりトランス脂肪酸が存在しませんが、動物の胃中に存在する微生物により合成されることがあるため、牛肉や羊肉、牛乳、乳製品にも微量に含まれています。
トランス脂肪酸の摂りすぎによって狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患(虚血性心疾患)を引き起こす場合があると言われ、WHO(世界保健機関)において、目標値が設けられています。
日本では今までトランス脂肪酸に関する記述はありませんでしたが、2020年版からはエネルギー摂取量の1%未満に留めることが推奨されるようになりました。
エネルギー摂取量の1%未満は、日本人が1日にとるエネルギーの平均である1900kcalの食事を摂取した場合、約2gに相当します。
現在の日本人の摂取状況をみると、大半は目標を下回っているのであまり心配する必要はなさそうです。
ただ、肉や揚げ物など、脂質に偏った食事をしている場合は気にかけておきましょう。
コレステロールは1日200mg未満に抑えよう
コレステロールはホルモンや胆汁酸を作るのに必要な成分ではありますが、過剰に存在すると脂質異常症(高脂血症)となり動脈硬化を引き起こす場合があります。
コレステロールに目標値が制定されているわけではありませんが、脂質異常症(高脂血症)の重症化予防の目的からは、1日200mg未満に留めることが望ましいとされています。
脂質異常症のリスクが高いといわれた場合は守ると良い数値といえるでしょう。
なお、コレステロールは食事だけでなく体内でも合成されるため、食事でコレステロールを控えても数値が改善しないことがあります。
健康診断で異常値が出た場合は病院へ行きましょう。
クロムに耐用上限量
クロムの過剰摂取が糖尿病を引き起こす可能性
クロムとは、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の活性化に関与する栄養素です。
現行の食事摂取基準では耐用上限量が定められていませんでしたが、サプリメントの不適切な使用により過剰摂取を招く可能性があることから、成人において1日あたり500μgが上限として定められました。
耐用上限量を少し超しただけで過剰症がすぐ起きるとは限りませんが、耐用上限量を超えた状態が続くとインスリンの作用が十分に発揮されず、糖尿病を引き起こす場合があります。
クロムのサプリメント摂取は不要
目安量は1日あたり成人10μgという量は定められていますが、あまり不足を心配する必要のない栄養素と言われています。
そのため、クロムをわざわざサプリメントで補給する必要はないといえます。
複数の栄養素が入ったサプリメントを摂取している場合はクロム量を確認した方が良いかもしれません。
なお、通常の食事でクロムの過剰摂取となる可能性は非常に低いとされています。
まとめ
働き盛り世代に知っていただきたい「日本人の食事摂取基準」の変更点は4点です。
- 塩分摂取の目標量が男性9.5g→7.5g未満、女性7.5g→6.5g未満
- ビタミンDの目安量が5.5μg→8.5μg
- トランス脂肪酸は1日のカロリーの1%未満、コレステロールは1日200mg未満
- クロムの耐用上限量は500μg
塩分の過剰摂取は高血圧やがんなどの生活習慣病を引き起こします。
摂取目標に到達するのは難しいですが、香辛料などを活用して楽しく減塩生活ができるとよさそうです。
ビタミンDが不足すると骨粗鬆症のリスクが高まります。
魚やきのこ類にビタミンDが含まれますが、他にも魚には心筋梗塞を予防するといわれるEPAやDHAが、きのこは日本人が不足しがちな食物繊維が豊富ですので、ぜひ積極的に摂り入れてみてください。
コレステロールは脂質異常症(高脂血症)のリスクとなります。同じ肉でも脂身に多く含まれますので、脂身の塊は避けると良いかもしれません。
クロムは通常の食事で不足することはあまりないので、サプリメントでの摂取は控えましょう。
なかなか食生活を変えるのは難しいですが、意識していれば日々の食事が改善できるかもしれません。これを機に食事摂取基準に目を通されてはいかがでしょうか。
わからないことがあれば管理栄養士などのプロに相談するのもおすすめです。
参考文献
厚生労働省「『日本人の食事摂取基準(2020年版)』の策定ポイントについて」https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000191494(参照日2019/11/20)
香川芳子(2012)「毎日の食事のカロリーガイド 改訂版」女子栄養大学出版部
関口紀子、蕨迫栄美子(2018)「栄養教育論-栄養の指導-」学建書院