出産が終わると約6ヶ月間にわたる授乳期が始まります。
母乳は赤ちゃんにとって大事な栄養素になるだけでなく、ママにとっても赤ちゃんとの絆を深められるなど数々の重要な役割を果たします。
母乳で育てたいママの割合は90%を超える一方で、出産1ヶ月の段階における母乳育児の割合は50%を下回ります。
ママも赤ちゃんもハッピーな母乳育児にあたり、心がけたい点を紹介します。
授乳期・妊活・妊娠中も食事で摂りたい栄養素は同じ
ビタミン類
表に妊娠後期と授乳期におけるエネルギーと栄養素の付加量を示しました。
推奨エネルギーやたんぱく質の量は減りますが、ビタミンA、B2、Cなどのビタミンを中心に増加しています。
妊娠期に摂りすぎ注意だったビタミンAは産後、ママと赤ちゃんの目や皮膚を守る役割を果たします。
ビタミンAはレバーや緑黄色野菜に多く含まれます。
鉄・葉酸・カルシウム
推奨量は妊娠期に比べて減少していますが、不足しやすい鉄や葉酸も引き続き摂取したい栄養素です。
鉄は母乳のもととなる血液を作るために必要です。
葉酸は妊活・妊娠時には赤ちゃんの先天異常を防ぐのに有効ですが、産後は子宮の回復を早め、貧血を予防してくれます。
カルシウムについては付加量がありませんが、体内への吸収量が妊娠期よりも減少します。
骨の材料となりますので十分な補給が必要です。
意識して摂取したい栄養素はビタミンAを除き、妊活中・妊娠中とあまり変わりません。
授乳期に控えたい食材や栄養素
脂質
脂肪をとりすぎると、母乳の質が変わったり、乳管が詰まって出にくくなったりします。
たんぱく質の摂取には脂っこい肉などは控え、白身魚や豆腐など脂肪分の少ない食品を選ぶようにしましょう。
ケーキやスナック菓子にも脂肪が多く含まれますので、おやつには脂肪分が少なく食物繊維が多い果物、さつまいも、寒天などを選ぶといいでしょう。
辛すぎる食べ物
母乳はママの摂った栄養だけでなく味にも影響されます。
キムチや豆板醤など刺激の強いものの摂取は控えた方が良いでしょう。
アレルギー物質
赤ちゃんがアレルギーを持っていた場合、発疹などの症状が出ることがあります。
この場合、ママの食べたものの中に原因食材が含まれている可能性があります。
ママが該当食材を食べないようにすればアレルギーの症状を抑えられます。
また、アレルギーの原因となる物質を取り除いた粉ミルクも代用できます。
気になる症状が出たら病院で相談しましょう。
不足に注意したいビタミンD、K
ビタミンDの合成のために、日光を浴びよう
近年、ビタミンDが不足する母子が増えているという研究結果が出ました。
ビタミンDは骨の形成に役立つ栄養素です。
不足すると、赤ちゃんには関節の腫れや骨の変形が起こる「くる病」、ママには「骨軟化症」「骨粗しょう症」が起きる場合があります。
原因は日光不足。
ビタミンDは紫外線によって皮膚で合成されるため、日射量が少ない地域に住む場合、日焼け止めを多用するなどで紫外線対策が完璧すぎる場合、不足のリスクがあります。
赤ちゃんのお世話で部屋にこもりがちになりますが、10~15分で十分ですので屋外に出ると良いでしょう。
赤ちゃんも5~10分程度日光に当たると必要なビタミンDを生成できます。
赤ちゃんにとっては外の刺激が強すぎる場合があるので、外出を開始するタイミングや程度については、検診時などに確認してみてください。
母乳含有量の少ないビタミンK
ビタミンKは血液凝固や健康な骨の育成に関わる栄養素です。
納豆やモロヘイヤなどに多く含まれるほか、腸内細菌から作られます。
大人が不足することはあまりありませんが、赤ちゃんには不足のリスクがあります。
赤ちゃんの腸内細菌が少ないのに加え、母乳に含まれるビタミンKが少ないためです。
不足すると消化管や頭蓋内の出血を起こす「新生児メレナ」や「突発性乳児ビタミンK欠乏症」を発症する場合があります。
病院では出生後すぐや検診時にビタミンKのシロップを赤ちゃんに与えていますが、ミルクを飲む量が少ない赤ちゃんは追加で必要になる場合があるので、医師に報告しましょう。
良い母乳はママが健康でいてこそ
卒乳後にまで影響する母乳のパワー
母乳は赤ちゃんの体を作る必要な栄養素を含むだけでなく、免疫成分が豊富に含まれます。
特に、出産後4~5日に出る初乳は免疫物質が豊富で積極的に飲ませてあげたいものです。
加えて、小児期の肥満や糖尿病の発症リスクを低下させるという報告があり、卒乳後にも良い影響があります。
母乳を与えるママにも精神的な繋がりを深められると同時に、産後の回復を促進する効果があるといわれています。
良い母乳は、ママの栄養バランスから
こういった母乳のもつ多数のメリットから、母乳育児は世界的に推奨されています。
質の良い母乳を十分に出すには、栄養バランスの良い食事を3食摂ることが大切。
エネルギーが常に必要な時期ですので欠食するとドカ食いして太ってしまう危険もあります。
赤ちゃんのお世話が昼夜関係なくあり、規則的な食事を摂るのは大変ですが、まずは1日3回おいしく食べられるタイミングを作ってみましょう。
加えて、母乳の出を良くするために水分補給も重要です。
糖分の含まれない水やお茶がおすすめです。
サプリで栄養バランスアップもあり
10ヶ月の長い妊娠期、痛い出産を経て一息つけるどころか、まだまだ気遣うべきことだらけ。
妊娠期と違って育児が加わって大忙しの中、食事の内容まで細かく考えられない!そんなママも多いと思います。
良い母乳にはママの心の健康も大切。
食事の内容に悩んでストレスになるくらいなら、サプリを利用して栄養バランスを整えるのも一つの手といえそうです。
食事から吸収されにくい葉酸や、日本人女性に不足傾向のある鉄、カルシウム、ビタミンCといった栄養素を摂ると栄養改善に繋がるでしょう。
母乳がスムーズに出るのは産後3~4ヶ月頃
産後1ヶ月の段階で、母乳が出なかったり不足気味だったりしてお悩みのママが多くいます。
母乳の出方がスムーズになるのは産後3~4ヶ月と言われます。
焦らず、まずはママ自身の体調を整えましょう。
産褥期(さんじょくき)と呼ばれる産後1~2ヶ月は体が妊娠前の状態に戻っていく期間です。
特にこの時期は十分に休んで、頑張った体をいたわってあげてください。
まとめ
授乳期に摂取を増やしたい栄養素はビタミン・鉄・葉酸・カルシウムと妊活中・妊娠中とほぼ同じです。
基本的には1日3回の食事から栄養を確保し、油っぽい食事や刺激の強い食事は避けておきましょう。
栄養満点の食事を毎食摂るのは難しい、不安だという方はサプリを利用してもいいかもしれません。
質の良い母乳をスムーズ出せるようになるにはママの体と心の健康が第一。
気になることがあれば周囲に相談して1人で抱え込まないようにすることも大切です。
参考文献
厚生労働省「国民健康・栄養調査(平成29年)」
厚生労働省(2008)「授乳・離乳の支援ガイド」
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
文部科学省(2014)「健やか親子21(第2次)について」
WHO(2017)”10 facts on breastfeeding” https://www.who.int/features/factfiles/breastfeeding/en/(参照2019.6.27)
笠井靖代、佐藤真之介(2016)「赤ちゃんすくすく時期別妊娠中の食事」西東社
川島由起子(2015)「カラー図解 栄養学の基本がわかる事典」西東社
中嶋洋子(2017)「改訂新版栄養の教科書」新星出版社
牧野直子、浦野晴美(2015) 「妊娠中の食事と栄養」学研
Junko Yorifuji, Tohru Yorifuji, Kenji Tachibana, Shizuyo Nagai, Masahiko Kawai, Toru Momoi,
Hironori Nagasaka, Hiroshi Hatayama, and Tatsutoshi Nakahata (2008) "Craniotabes in Normal Newborns: The Earliest Sign of Subclinical Vitamin D Deficiency" The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism