【2019年版】熱中症対策に必要な塩分・水分は?夏前に摂取のポイントをおさらい

もうすぐ暑い夏がやってきます。そこで不安になるのが熱中症。
熱中症対策として水分補給は当然のことながら、近頃は塩タブレットや塩飴などによる塩分を補給する商品が店頭に多く並び、塩分補給がメディアでもよく推奨されています。
その一方で、「塩分の摂りすぎは体に悪い」という話も。
そこで、熱中症予防に有効な塩分・水分補給について考えていきます。

そもそもどうして塩分補給が必要なの?

私たちの体は汗をかくことで体温の上がりすぎを防ぎます。
汗が蒸発するときに体から熱を奪ってくれるのです。
しかし、汗に含まれるのは水分だけではありません。
水分と一緒に塩分やミネラルも流れ出てしまいます。
塩分やミネラルが減った状態の体に水分だけを補給すると、体内の塩分とミネラルの割合が低くなり、痙攣などの熱中症の症状が出ることがあります。
このように、水分のみの補給はかえって熱中症を発症させたり、悪化させたりすることがあるので、熱中症の対策に塩分補給が必要と言われるわけです。

夏に塩分はどれくらい失われるの?

夏は冬よりも汗をかく量が多い

年齢や性別などで差はありますが、冬から夏にかけて汗は40%程度増加します。
60分の足湯による発汗量を調べた実験では冬場の汗の量は930gであったのに対し、夏場は1,240gという結果が出ました。
夏になり気温が上がると、体温を下げようと汗をかく量が増えるようになるのです。

季節で汗の塩分濃度は変わる

気温の変化で汗の塩分濃度は変わります。
前述したように、気温が上がると体は汗をかきやすくなりますが、同時に体内の塩分損失を防ごうと、汗に含まれる塩分濃度を少なく調節するのです。
つまり、夏と冬で同じ量の汗が出たとしても体内から流れ出る塩分は冬の汗の方が多くなります。

塩分は尿からも出ていく!

塩分は汗からだけではなく尿からも排泄されています。
汗と同じように、尿の塩分濃度も気温によって変化します。
夏は、汗で流れ出る塩分が多いため、尿に含まれる塩分濃度が減少します。
反対に、冬は汗が少ないため尿中の塩分濃度は増加します。
このように、汗と尿に含まれる塩分濃度の変化を考慮すると、通常の生活では「夏だから塩分が多く失われる」というわけではないようです。

普段の生活では、積極的な塩分補給は不要

日本人は塩分を摂りすぎている

厚生労働省によって定められた「日本人の食事摂取基準」(2015年版)では、食塩摂取量の一日あたりの目標量は成人男性が8g未満、女性が7g未満です。
さらに、2013年の世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、成人の食塩摂取は1日5g未満にすべきだとされています。

日本人の食塩摂取量は減少の傾向にありますが、平成29年国民健康・栄養調査によると、食塩摂取量の平均値は9.9gと、目標量を大幅に上回っていることが分かります。
つまり、一般的な生活をする上での塩分補給は通常の食事からのみで十分で、むしろ夏でも減塩を意識したほうがよいと言えそうです。

塩分の摂りすぎは高血圧、がんのリスクになる

塩分の摂りすぎは高血圧、胃がんの発症リスクを高めるといわれています。
高血圧は脳卒中や心不全など心臓や血管、さらにはほかの臓器に障害をきたします。

参考:【徹底解説】怖い高血圧!栄養バランスや生活習慣の見直しで予防を

胃がんは早い段階で自覚症状がほとんどなく、かなり進行しても症状がない場合があるので、症状が出た時には周囲の臓器へも転移している場合があります。
特に男性による塩分の摂りすぎが胃がんを発症するリスクを高めるという研究報告がでています。

まずは暑さに慣れることと、水分補給

汗の塩分濃度調節には時間がかかる。徐々に身体を慣れさせよう。

気温が上がると、発汗を増やして汗の塩分濃度が下がることを紹介しましたが、このような暑さへの慣れを暑熱順化(しょねつじゅんか)といいます。
これは急に起きるものではなく、数日から数週間必要で、かつ体が暑さを認識し続けることが必要です。
エアコンの使用は熱中症対策に有効と言われますが、暑熱順化の妨げになるので注意が必要です。
真夏になる前の5月や6月から冷房の効いた部屋にばかりいてしまうと暑熱順化ができず、汗や尿の塩分濃度調整が働かないまま真夏を迎えると熱中症の危険性を高めてしまいます。

喉が渇く前に水分補給。いつもよりコップ2杯分多く飲もう。

水分補給も熱中症対策には重要な鍵を握ります。
成人の場合、60%が水分でできています。
体重の3%が汗で失われるだけでも、運動能力や体温調節に問題がでてくるようになり、5%失うと脱水症状や熱中症などの症状が現れるといわれています。
日常生活で摂取する水分は1日あたり1.2Lが目安ですが、厚生労働省によると、水分の摂取量は多くの人が不足気味です。

1日にコップの水をあと2杯飲めば必要な水の量をおおむね確保できるといいます。
水分が不足しやすい就寝前後、スポーツの前後・途中、入浴前後、飲酒中・後の水分補給が特に重要です。
さらに、人間は軽い脱水状態のときに喉の渇きを感じないことが知られています。
ですので、喉の渇きを感じる前や暑いところに出る前から水を補給しておくのが大切です。

スポーツをする時に注意したい塩分補給のポイント

激しい運動をする場合は塩分補給がマスト

長時間の運動など、急激に大量の汗をかく場合は、塩分補給が必要になります。
気温が上がるにつれて汗に含まれる塩分を抑制する機能が短時間では働かず、汗に含まれる塩分の濃度は上がってしまいます。
この状態で水だけを飲んでいると、体内の塩分濃度が下がり、熱中症の1つのタイプである熱けいれんが起きることがあります。
熱けいれんは足、腕、腹部の筋肉に痛みを伴ったけいれんが起きるというもので、トライアスロンのような激しい運動を3時間以上続けた人に起きやすいといわれています。

こうした強度の高い運動をする場合は0.1~0.2%もしくはそれ以上の塩分補給が必須です。
もし、熱けいれんが起きてしまった場合は、体内の塩分濃度と同じ0.9%の塩を含んだ生理食塩水の補給が応急処置として有効です。

水分をとりやすくするために、塩分補給

マラソンや野球、サッカー、バスケットボールなど、トライアスロンに比べて比較的軽度な運動をする場合でも、塩分補給が有効です。
前述のとおり、熱中症予防には水分補給が重要ですが、大量に汗が出た場合は発汗量に見合った量の水を飲むのが難しくなります。
そこで、水分をとりやすくするために0.1~0.2%の塩分と3~6%の糖分を含んだ5~15℃に冷やした水が推奨されています。
市販のスポーツドリンクでも良いです。
選び方として、成分表示をチェックするのがおすすめです。
ナトリウムが100mLあたり40~80mg含まれていれば、0.1~0.2%の食塩水と同じ塩分の割合になります。

運動時の水分補給の目安

運動をするときの水分補給はとても重要です。
目安としては運動による発汗量の7~8割程度です。
日常的に運動する人は汗の量を確かめておくといいかもしれません。
発汗量は(運動前の体重)-(運動後の体重)で求めることができます。
日本体育協会からは運動の種類別水分補給の量とタイミングの目安が出ていますので参考にしてみてください。

まとめ:暑さに負けない体を作ろう

熱中症対策のための塩分補給は3タイプで考えると良いでしょう。

  • 一般的な生活を送る人は、不要
  • マラソンや野球のような運動をする人は、汗をたくさんかいた時に
  • トライアスロンのような激しい運動をする人は、必須

どのような生活を送る人でも、まずは暑さに体を慣らすこと、水分補給がとても重要です。
さほど暑くない5~6月のエアコン使用は少なめに、汗を冬モードから夏モードに切り替え、喉の渇きにかかわらず意識的に水を飲むようにしていきましょう。

これまでの話は食事からの塩分がとれていることが大前提です。
特に朝食を抜く行為は熱中症発症の大きな要因となっています。
朝食によって必要な塩分と水分を補給できますので、しっかりと食べるようにしましょう。

参考文献

一般財団法人日本気象協会 <https://www.netsuzero.jp/learning/le01/case01-02>(参照2019.05.15)
環境省 「平成29年度熱中症対策シンポジウム配布資料」<http://www.wbgt.env.go.jp/pdf/sympo/20170521.pdf>(参照2019.05.17)
環境省 熱中症環境保健マニュアル2014 <http://www.wbgt.env.go.jp/pdf/envman/full.pdf>(参照2019.5.17)
厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」<https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html>(参照2019.05.15)
厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査結果の概要」<https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000351576.pdf>(参照2019.05.15)
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国立がん研究センター「食塩・塩蔵食品摂取と胃がんとの関連について」<https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/260.html>(参照2019.05.17)
財団法人日本体育協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」<http://www.doichi.co.jp/products/HeartstrokePreventionGuide.pdf>(参考2019.05.17)
中村泰人「『生気象学』への期待-暑熱適応の展開-」(2012)日本生気象学会雑誌
藤田水穂「暑熱環境下における体温調節反応の季節変動に関する研究 : 年齢・性・断眠の影響について」(2003)<https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/458557/k081-03.pdf> (参照2019.05.17)
吉村寿人「ヒトの適応能―特に日本人の気候適応と文化適応―」(1982)Journal of UOEH
WHO ”Guideline: Sodium intake for adults and children”<https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/77985/9789241504836_eng.pdf?sequence=1>(参照2019.05.17)

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