葉酸の摂取量とうつ症状の予防に関する報告
フィンランドのクオピオ大学、Tolmunenらの研究により、食事性葉酸の摂取量が多い人は、少ない人よりもうつ症状を発症しにくかったことが報告されています[1]。
~以下引用~
この研究は、一般的な集団における食事性葉酸と抑うつ症状との関係を調べるために、フィンランド東部の42~60歳の男性2,682人を対象に行ったものである。
うつ症状を、18項目のヒト集団検査うつ病スケールで評価した。これには気分の落ち込みや睡眠、摂食、集中力などの項目があった。栄養素摂取量は4日間の食事記録によって評価した。
結果、抑うつ症状があった人は症状がなかった人と比較して食事性葉酸の摂取量が少なかった。エネルギー摂取量で調整後の食事性葉酸摂取量によって3つに分類したところ、最も少ないグループ(45.4~226.0 µg/日)は最も多いグループ(269.3~587.5 µg/日)と比較して抑うつになるリスクが67%高かった。同様な処理をビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12の摂取量によって3つに分類したが、抑うつになるリスクには差異は認められなかった。
なお、気分の落ち込みがあった人は1人暮らしの人が多く、エネルギー摂取量が少なく飲酒量も多かった。
~引用終わり~
この報告より、食事性葉酸の摂取量が少ないと抑うつ症状が出るリスクが上がる可能性が示されました。
日本における葉酸摂取の推奨量
日本人の食事摂取基準における食事性葉酸の摂取推奨量は成人で240 µg/日、妊婦はさらに+240 µg/日の480µg/日の摂取が推奨されています[2]。
葉酸摂取のポイント、サプリメントを活用するのも有効
食事性葉酸は、ほうれん草やブロッコリーなどの緑黄色野菜や果物、のりなどの藻類、レバー、玉露に多く含まれます。
なかでも鶏レバーは100 gあたり1,300 µgの葉酸を含みます[3]。
ビタミンA(レチノール)も豊富に含むため(100 gあたり14,000 µg)摂り過ぎには注意が必要ですが、上手く活用すると良いでしょう。
葉酸は水溶性ビタミンであり、ゆでると溶け出てしまうため、ゆでるよりは炒めるほうが損失は少ないと考えられます。
また、葉酸は熱に対して不安定なので、加熱調理は短時間で済ませるのが良いでしょう。
調理による損失の多い栄養素なので、手軽に摂取するにはサプリメントの葉酸を活用するのも有効です。
食事性葉酸とサプリメント葉酸の違い
専門的な話になりますが、サプリメントに使用されている葉酸の化学名はプテロイルモノグルタミン酸といいます。
食事性葉酸に比べて安定な化合物ですのでサプリメントとして広く使用されています。
一般的に、葉酸といえば、このプテロイルモノグルタミン酸のことを指すようになっています。
プテロイルモノグルタミン酸は化学合成されたものであり、それ自体は食べ物中(生物学的には細胞の中という意味です)には存在していません。
しかし、われわれ人間は、このプテロイルモノグルタミン酸から、食事性葉酸と呼ばれている栄養素を体内で作ることができます。
ですので、サプリメントに使用されている葉酸、すなわちプテロイルモノグルタミン酸は栄養学的に優れた食事性葉酸前駆体となります。
プテロイルモノグルタミン酸から、体内で作られる食事性葉酸は、数種類あり、一つの化学式では書けません。
食べ物の中に最も多い食事性葉酸の化学名は、5-メチルテトラヒドロプテロイルポリグルタミン酸です。
サプリメントからの葉酸摂取には耐容上限量が策定されている
一方で、優れているので過剰摂取による健康障害にも注意が必要です。
日本人の食事摂取基準には、葉酸の耐容上限量(30歳から64歳の男女で1000µg/日)が策定されています。
ただし、注意書きがあります。
それは、「通常の食品以外の食品に含まれる狭義の葉酸のこと、食事性葉酸の摂取量には適用しない」ということです。
具体的には、サプリメントに使用されている葉酸のことで、化学名ではプテロイルモノグルタミン酸のことです。
耐容上限量とは、この摂取量以上を習慣的に続けると、健康障害のリスクが高くなりますよ、という意味で、一回だけの摂取量が少し超えても直ちに健康障害のリスクが高まるという意味ではありません。
気持ちとしては、習慣的に、耐容上限量には近づきたくない、という数値ですね。
おわりに
食事性葉酸がうつ症状の発症と関係している可能性が示唆されています。
葉酸はビタミンB9とも呼ばれます。ビタミンB9に関する情報を正しく理解しないと健康障害のリスクが逆に高まります。
特に、妊娠を計画されている方は、葉酸サプリメントの使用に関しては、管理栄養士の指導を受けられると良いと思います。
引用文献
[1] Tolmunen T, Voutilainen S, Hintikka J et al. Dietary folate and depressive symptoms are associated in middle-aged Finnish men. J Nutr. 2003; 133: 3233-3236
参考文献
[2] 厚生労働省(2019)「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書」, <https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html>(参照2020-06-01)
[3] 文部科学省(2019)「食品成分データベース」, <https://fooddb.mext.go.jp/>(参照2020-06-01)