運動における栄養素の重要性 ~ミネラル摂取がパフォーマンスUPにつながる?~

マグネシウムや鉄が運動能力に重要かも

運動のパフォーマンス向上に、栄養状態が関係しているかもしれません。
運動におけるミネラルの役割が報告されており、特にマグネシウムや鉄については質の高い研究が報告されていると述べられています[1]。
この記事では、報告の内容と、摂取のポイントをご紹介します。 

運動におけるマグネシウムや鉄の役割に関する報告

アイルランド、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのHeffernanらによって、運動におけるミネラルの役割が報告されています[1]。

~以下引用~
この研究は、運動および運動能力におけるミネラルの働きを述べた論文を系統的に評価したものである。評価した128件の論文は、鉄、カルシウム、マグネシウム、リン、亜鉛、ナトリウム、ホウ素、セレン、クロム、およびマルチミネラルに関する研究であった。そのうち、鉄およびマグネシウムについては以下に述べるような質の高い研究が存在した。
すなわち、6〜8週間にわたる100 mg/日の硫酸第一鉄または15〜60 mg/日の鉄の経口補給は、3000 m走でのタイム、乳酸が血液中に急激に貯まり始める走行スピード、血中乳酸蓄積の開始時期、運動誘発性鉄損失の防止、運動後のより迅速な回復などに改善をもたらす可能性が高い。さらに、11週間にわたる約100 mg/日の鉄補給は、瞬発力と最大筋力のマーカーに改善をもたらすことが示されている。
また、300〜500 mg/日のマグネシウムの短期間(約1〜4週間)補給は、筋肉の能力改善と運動誘発性炎症の防止など、運動能力の改善や運動による生体ダメージの防止に効果を示している。
結論として、一部のミネラルは運動能力を改善する可能性を持っており、より多くの微量元素について、質の高い研究が必要であるとしている。
~引用終わり~ 

マグネシウムおよび鉄摂取のポイント

上記の研究が対象としたのはいずれも運動選手であり、健康のためにスポーツを導入している一般人にそのまま適用できるものではありません。
効果が確実視される鉄とマグネシウムについても、いずれも食事摂取基準の耐容上限量を超える投与が行われています。
とくに鉄については、短期的には運動能力の改善につながっていますが、より長期にわたって投与が継続された場合には、組織への鉄沈着が起こり、健康障害の発生が懸念されます。
また鉄の投与を一種のドーピングとみなす意見もあります。
マグネシウムにしても、一次的に大量に摂取した場合は、消化管内で脂肪酸と不溶性の塩(一種のセッケン)を生成して、下痢を起こす可能性があります。
運動選手であっても、専門家の意見を求めずに、安易に鉄やマグネシウムの摂取を大幅に増やすことは勧められません。
しかし、これらのミネラルが運動能力と強く関わっており、その不足が運動パフォーマンスの低下につながることは事実です。
したがって、日常的に激しい運動を継続している人は、摂食量を増やすことで、鉄とマグネシウムの摂取量が一般人の推奨量よりも高くなるような献立を考えるべきでしょう。

マグネシウム

マグネシウムを比較的多く(100 gあたり50 mg以上)含む食品には、ほうれんそう、木綿豆腐、水戻しわかめなどがあります[3]。
また、一般に魚介類は肉類よりも多くのマグネシウムを含んでいます。さらに日常的に大量に食べるものではありませんが、アーモンドなどのナッツ類や焼きのりは100 gあたりで300 mg程度のマグネシウムを含んでいます。
文部科学省が出す「食品成分データベース」[3]を参考にしながら、日常の食品の中でマグネシウムを多く含んでいるものを意識して献立を組み立て、2000 kcalあたりで300 mg以上のマグネシウムが摂取できるようにしましょう。
繰り返しになりますが、サプリメントからの多量摂取(成人の場合350 mg/日以上)は下痢を引き起こす可能性があるため、サプリメントによってマグネシウムの摂取量を増やすことは勧められません。 

鉄はレバーや赤身肉などの肉類や、かつおやいわし、あさりといった魚介類、野菜であれば小松菜や豆類に多く含まれます[3]。
栄養学の教科書では動物性食品中の鉄はヘム鉄の形態であり、無機鉄の形態である植物性食品中の鉄よりも吸収が良いと記述されています。
しかし、最近の研究では、植物性食品中の鉄の吸収率は鉄の栄養状態によって増減することから、鉄の要求量が高いときには動物性食品の鉄よりも吸収率は高くなります。
また、鉄は過剰に摂取すると、がんを始めとする様々な慢性疾患に罹患するリスクが高くなりますが、ヘム鉄はそのリスクが特に高いとする報告もあります。
したがって、動物性食品にこだわらず、2000 kcalあたりで10 mg近くの鉄が摂取できるような献立を工夫してみてください。 

引用文献

[1] Heffernan SM, Horner K et al. The Role of Mineral and Trace Element Supplementation in Exercise and Athletic Performance: A Systematic Review. Nutrients. 2019; 11(3): 696.

参考文献

[2] 厚生労働省(2019)「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書」, <https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html>(参照2020-02-14)
[3] 文部科学省(2019)「食品成分データベース」, <https://fooddb.mext.go.jp/>(参照2020-02-14)

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